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川原泉 「美貌の果実」文庫 全1
80年代後半の、絵にも話にも長台詞にも油が乗りまくりの頃の作品を
集めた短編集。

改めて内容を見返すと、すごい。サンヨーオールスターゲームだぜ。
表題作の農牧シリーズ(勝手に命名)に、大人を泣かす「架空の森」、
これぞ川原ファンタジーな「森には心理が落ちている」など、三割バッターが
揃いも揃ってバントをかますような贅沢さだ。
なんかニヤついてきた。

表題作を差し置いて「森には心理が落ちている」について思うところを。
主人公の雪村霙(みぞれ)さんが、しゃべる亀にけっつまずいて
亀になってしまった。(シュールだ)
現場を目撃していたクラスメイトの氷室冬騎さんの家に、ペットとしてやっかいになるが
どうやら冬さんは母親にだけよそよそしい。なぜだろうか。そして人間に戻るには
どうすればいいのだろうか。
というおはなし。

男勝りの無骨な主人公が多い川原マンガのなかで、この雪村さんは非常に女の子らしい。
で更に、片親のいない主人公が多い中(なぜ…)、彼女は両親とも亡くしていて
一人暮らしをしている。
だのに、明るくつつましやかで健気な雪村さんに、冬さんと同調して心を溶かされるわけです。
ラストの冬さんの独白がよい。
―僕にはすてきなカメがいる 
  誕生日にひとりでケーキ勝って 
        ひとりでローソク立てて 
        ひとりで御祝いパチパチパチ
  そーゆーすてきなカメだった
本人が照れ屋なのか、男女の物語が多いのにあえて直接的な告白を描かない著者が
真っ向から「好きだよ」を言わせた貴重な作品。じーんとするよ。

初めて川原作品を読むという方に、オススメするなら「笑うミカエル」かこれだな!5点!!
by nanako_6150 | 2006-07-24 16:03 |       か行 22件
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