木原敏江(原作A&Sゴロン) 「アンジェリク」文庫 全3 
ついに我が青春のバイブル、木原敏江の書にたどり着いてしまった。
17世紀フランス、ルイ14世の時代に波乱の人生を歩んだアンジェリクと、
彼女を愛したジョフレ、ニコラ、フィリップの3人の男の物語。

感想書くためにさらっと読み返そうと思ったら、結局5時間ぶっとおしで
涙ながらに完読してしまった。ばか。

宮廷内の争いから発展するドラマティックな物語も読み応え十分だが、
それらに説得力を持たせているのは個々のキャラクターのあふれんばかりの魅力。
木原さんはなんて豊かに人間を描くんだろう。
奔放で正直なみどりの目の美少女アンジェリク。
体が不自由で顔に傷があるが、不屈の精神と王者の度量の持ち主ジョフレ。
社会の底辺に落ちてなお明るさと優しさを失わないニコラ。
美貌のお人形として宮廷で持て囃されているが、誰にも心を開かないフィリップ。
結果的にアンジェリクが3人全員と結婚することになるのがちょっとウケる。
愛するジョフレと婚約しているのに、初恋の人フィリップに踊りに誘われる
ことを期待したり、ジョフレと死別したためニコラと結婚したが
生きていたことが分かるやはりジョフレの方に行ったり、
しかしジョフレに奥さんがいたと知ったショックで気が動転して
ニコラを差し置いてフィリップと一夜を共にしたり。
これだけ見ると「アンジェリク許すまじ!」って思うけど、
それでも憎めないし、愛しく思えてしまうのがこの女のすごいところ。
そして同時に原作ゴロンさんと木原さんのすごいところ。

が、一番語りたいところは脇役にあり。
それは同時にオーラスネタバレなので別枠に。
↓「アンリ・ド・ボーフォールとクロード・ル・プチを称えるの会」より。

もう戻れない遠い昔を懐かしむような、胸をゆるりと締め付けるラストに落涙。4.5点!




主人公たちと関わりながらも、物語の少し外側から彼らを見守るのが
ボーフォールとクロード。
彼らのなんと魅力的なことか!!

古くからの名家で絶大なる財力と権力をもつボーフォール公爵と、
下町の蛮族の仲間で賞金首の吟遊詩人クロード。
立場は大いに違えど、ふたりには魅力となる共通点が多い。

キーワードは「見守る者」。
賢く、公平で、自分の生き方を確立しているが、惚れた相手の為に
無茶をすることを厭わない。相手の運命の人が自分でないと分かっていても。
(あれ、修ちゃん?(ハチクロ))
木原マンガではこの手のキャラが多く、また皆ごっつステキな奴。
代表作「摩利と新吾」でいえば、夢殿、紫乃、ギョーム・ド・ボーフォール(ぜったい
アンリの子孫)なども同じ系統かと。
…なんか書いてて一番の共通点に気づいてしまったけど、
みんな男色家でした…。もしくはオカマ両刀。(まともに女に恋したのは紫乃さんくらい)
なぜですか!?木原さん!
そしてなぜ魅力を感じたのがみな男色家なのですか!?自分!

(著者違いだけど竹宮恵子の「風と木の詩」の名キャラクター、ボナールも
主人公ジルベールを史上の美と称える「見守る者」ですがこれまた男色家)


気を取り直して。
吟遊詩人のクロードはニコラにぞっこんだが、アンジェリクのことも気に入り
2人を応援する。一級の情報網を使って最後まで2人を守り、自分は
盗賊狩りの最中の砦に戻り憲兵に刺されてしまう。
ニコラの腕の中での最後のセリフ「セ・フィ・ニ(おしまい)」
人生悔いなし!ってかんじで壮絶。
か、かっこいー…。
登場ページもあまり多くないのに鮮烈な印象を残して去った名キャラでした。

ボーフォール公に至っては名ゼリフのオンパレード。
陸軍元帥であるフィリップの相談役で、心からフィリップを愛する中年。
とゆーとなんかキモいんですが、他の多数の貴族がフィリップを美しい人形として
持て囃し、ルイ14世に至っては「余の親友であり余の忠実な奴隷」と思っている中で、
ボーフォールはただ一人彼の孤独とそれを埋めるアンジェリクへの恋心を見抜いていた。
ラスト、ルイ14世がフィリップにアンジェリク一行を始末する命令を下してから
ボーフォールの暴走、止まりません。
「あれが王者の無神経さというものなのか」
「国王という名の恥知らずの若い男!」

アンジェリクの為その身を投げ出した瀕死の状態のフィリップを抱き、
「今度こそきっとうまくいく!アンジェリクもきみの本心を知ってかなり動揺していたからな。
心から愛し合えるようになるとも。じゃまな恋敵のペイラックはわたしが始末してやる」

あんたこそフィリップを愛してるくせに!アンジェリクこそあんたの恋敵なのに!
なんという優しさ!最終的にはフィリップを殺した国王への暴言でバスティーユに送られる。
か、かっこいー…。

フィリップを失い、彼の領地を譲り受けたボーフォールは、そこで亡き人に思いを馳せる。
アンジェリクと離れ、サンセに戻ってきたニコラと共に。

『平和にすぎていく生活の中で どうにもやるせない思いにとりつかれた夜など
…それは月の満ち欠けのように定期的にやってくるものではなかったが
そんなときふたりはお互いの存在を神に感謝した』
『ふとだまりこみ目を閉じ 共犯者だけがもつやすらぎの中で
忘れじの糸車をまわしながら 思いめぐる年月 思いめぐるそれぞれの歌』


まさに、これ。まさに読者がシンクロするのがこの思いですよ。
幸せなのに取り残されたように切ないんですよ。

だから読者を体現する「見守る者」に惹かれるんですねー。



つーか、長!!!
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by nanako_6150 | 2006-09-12 17:55 |       か行 22件
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