木原敏江 「摩利と新吾」文庫 全8 
「ウォーッス!」「バッキャローっ!」「うむ じつに」「おのおのがた」などの
普遍的な名文句を生み出した、青春マンガの傑作。
間違いなくドジさまこと木原敏江の代表作。オロロ~ン。


か…、かけない。
自分のレビューの至らなさに恥ずかしくなったときには、作中の名台詞を引用して
その偉大さの影に隠れてやりすごすという手法もあるけど、この作品は
誰のこの一言がどうとか(名台詞は多いけど)いうことでその真髄を語ることは難しい。
つまり群像劇なのですよ。明治末期から大正の旧制高校を舞台とした
心優しき野蛮人たちの成長期。青春の記録。

主人公の摩利と新吾は生まれたときからの親友であり、お神酒徳利(ふたつでひとつ)と
呼ばれるほどの一心同体コンビ。2人がその学力・腕っぷし・人望・容姿を買われて、
持堂院高校入学早々、生徒会機関である全猛者連の会長に抜擢されるところから
物語りは始まる。
学生生活のなかで、摩利は新吾への恋心に気づき、それが以降物語の根幹であり
通奏低音として流れ続ける。んだけど、全然同性愛マンガとして読む必要はないから。
摩利の親友を思う切ない気持ちや、新吾の親友を気遣って答えようとする必死さは
あまりに正直で自然で、さらに必然的。
どこかで聞いたような台詞ばっかりで、すっとろいキャラクター満載の、
あざとい展開をあざとい演出で見せる最近の一部のドラマや映画を作る方々に
ぜひ、ぜひ!読んでもらいたいものです。

1巻の特に1話が顕著だけど、最初はコメディーを超えてほぼギャグです。
主人公たちの専攻がドイツ語必修なので、日常会話にしばしばドイツ語が登場する。
「アッハ シューネ マリィ(ああ うるわしの摩利くん)」など。いちいち訳が付きます。
「おれは新吾をひと目で愛してしまったのだ!
熱烈なフロイントシャフト(友情)を感じている」(四季遥)
クナーベン リーベ(少年愛)でしょう?」(摩利)
どうしてそこだけドイツ語なんだー!と逐一つっこみたくなる。
序盤がこんなノリだから、中盤からのシリアス8割な展開に、常に不安と対峙しながら
読まねばならない。2人が欧州へ行ってからは特に。
しかし、そんな序盤も無駄な話はひとつもなく、本当に全ての話がこのラストのためには
必要だったと思うと、ますます木原大将に足を向けて眠れないのです。拝伏。

物語もすばらしいけど、もちろん絵も語るときりがない。
3巻あたりから特に繊細さに磨きがかかって、デッサンも良好に。
アンジェリクの頃にはまだ見られなかった、指先の色気もムンムン出始めた。
木原マンガの月系美人(滝川篝や「アンジェリク」のフィリプ、「鵺」の篠夫ナド)代表の
鷹塔摩利さまの美貌もここにきわまれり
というかんじで。最高です。
欧州編からはこのお方の衣装センスとそれを描く巧みさが際立つし、コマわりでの心情の
見せ方とかもよい。(摩利が立ち直る展開、新吾との再会、よかったなあ)

彼らとあまりに長い時間を共有するので(メインで15年、全45年!)、読後は
例のごとく「ホゲー」っとしてしまうのだが、何度読んでも薄れることのないこの高揚感!
とてもわずか8冊とは思えない濃密さ。
5回読んで真価がわかる作品。

至純のロゴスと至高のパトスをば、共に追い磨いていくための青春のバイブル!(超)5点!!
けっきょくいっぱいかいちまった。静聴を感謝する!バッキャローっ!


「摩利と新吾」イラレ絵



「摩利と新吾における女性/キャラの死について」

男子校が舞台なので、比べると女性キャラは少ない。でもみんないい味だしてる。
登場順にメインどころを並べてみます。

ささめ…小間使い。後に摩利の側室(正室は生涯いない)
姫花…女子修学院に通うお嬢様。美女姫連(すごい名称だ)の会長
美女夜…修学院生のあこがれのまと。男装の麗人。
ひふみ…新吾の放浪先の芝居小屋の少女。後に新吾の奥さん
ウルリーケ…摩利の従兄弟。奔放なドイツの遊び人
ドリナ…セルビアの革命家。新吾の最愛の人

こうして見ると、摩利と新吾が選んだ3人はみんな生まれながらに苦境にあって
それを乗り越えてきた女性なんだなと気づく。彼女たちのそれ故の優しさと
全てを前向きにとらえる強さに惹かれたということなんですかね。
(っても、ちゃんとした恋愛はドリナだけで、他は、えーと、安らぎという名の愛情?
ドリナは当時のファンの中では人気なかったみたいだけど、わたしは好きだなー。
まあ、ぽっと出で新吾のハートをワシ掴んでいっちゃったんだから、新吾ファン(いるのか?)
や新吾のことを愛する摩利のファン(多かろう)はおかんむりだわな。
でも、あの新吾が恋する女性っていったら今までの人たちとは一線を画していなければ
いけない。彼女の女王のような気質と、ほんのりとした無神経さは必要だったのだと思う。
あのくらいの、言葉のいらないほどのインパクトがないと。
なんにしろ「私を待って独身を通すなんてバカなまねだけはしないでね。
そんな一生を送らせるためにわたしはシンゴに恋したんじゃないわ」
にはぐっとくるぜ。

一番のお気に入りは、上記6人中一番報われない美女夜くん。
姫花と違い一見大人で公平でかっこいい美女夜くんだが、実は幼馴染で同性の
姫花を愛していて、嫉妬にかられて新吾を葬ろうとさえした。(こええ)
姫花が憎まれ口をたたきながら実は新吾を好きで、美女夜はそれを知りつつ
新吾に一目ぼれをしたと心にもないことを言いながら実は姫花を愛している、という構図。
これってなんか、恐ろしいほどリアルだ
その後姫花への思いを断ち切るために欧州へ旅立ち、フランスで摩利たちと再会、
摩利に恋するようになるが最後まで相手にされず。(摩利はどうでもいい女にしか
手を出さなかった)
「バカな女ほどしあわせになれるってのは本当だわ!」(7巻)
「しょせん わたしは外野席なのかしらね」(7巻)
「わたしもついに…ひとりでいると寂しい歳になってしまったのですな」(8巻)
などの名台詞がある。
最終的に、「頭の禿げた外交官」と結婚してアメリカへ。どうか幸せになってほしい!


摩利と新吾の関係を一生を通して描いている作品なので、多くの主要キャラの
死までが描かれている。
戦争で死んだ主人公と持堂院の仲間たちのことは回想的な表現だったので、
悲しむというよりはもう歴史の1ページを読むような気分だった。
でもそれ以前に死んだ青太、滝川、紫乃先輩には泣いたなあ。
特に紫乃はそれまでの描かれ方と、死が語られる場面の巧みさにノックアウトも甚だしい。
「おれかえ?おれはこのまま…浮いた浮いたで暮らしたや」「うっふっふ」の紫乃が。
他のキャラとは違う世界を生きているような飄々とした紫乃が。
まさかあんなにあっけなく逝くとは思わなかった。
8巻59ページからの4ページの表現が全てにおいて完璧だと思う。
関東大震災の騒ぎが少しづつおさまり、人々が復興に向けて動き出したところだった。
コスモスの花畑に小さく新吾が佇む。
「神無月―」
ひさ子と子供が座っている。
「紫乃が死んだ」
たった2コマにこれだけの感情をこめるのはすごい。こんなに静かなのに。
おんおん泣いている桃太郎に対して、夢殿は一言も発せずに耐えているのも印象深い。
夢殿のダメージに唯一新吾だけが気づくのだが。
「たしかに…若いままで時間を止めた紫乃がうらやましいと思うときもあるが…
しょせんおれはおれだ ほかの生き方などできないからな」
夢さんの孤独。いい台詞だ。

戦後、旧制高校の廃止を受けて集まるOB。
どうみても死にそうになかった星男、織笛、ルミィがやっぱり生きてる!
30年来の旧友に再会したかのようなうれしさだ!オロロ~ン。
[PR]
by nanako_6150 | 2006-09-20 02:06 |       か行 22件
<< 余談1 木原敏江(原作A&Sゴロン) ... >>